感動したw

2005年11月10日 マジック
《トルシミール・ウルフブラッド》の率いる《ヴォジャ》という狼は元《番狼》の群れにいた狼でした。

《ヴォジャ》は生まれつき身体が弱く、《群れでの狩り》ではいつもいつも役立たず。野生の世界では実力のないものはすぐに排除されます。厳しい弱肉強食の世界です。役に立たないお荷物をいつまでも群れの中に置いていてはいずれ《番狼》の群れそのものを滅ぼしてしまうことになるかもしれません。当時《番狼》のリーダーを務めていた狼は、ついに《ヴォジャ》を群れから切り離す決心をしました。どんな場合においても常に仲間のことを最優先に考えてきた彼が、仲間を追放するなんて随分と心を痛めたことでしょう。しかしそれも仕方がないこと。彼は《番狼》のリーダーとして、たった一匹の仲間よりも多数の群れを優先せざるを得なかったのです。

雪の降る夜でした。いつものように皆が集まったとき、《ヴォジャ》は仲間の目がどことなく冷たくなっていることに気がつきます。今まで多くの世話をかけてきた分、《ヴォジャ》は群れの中では誰よりも仲間の反応に敏感だったのです。《群れでの狩り》は普段どおり順調でしたが、《番狼》のリーダーは今日非常に心苦しい選択をしなければならないことに憤りを感じていました。しかし何度も何度も群れのためだ群れのためだと心の中で繰り返し、ようやくその決心をつけました。狩りも終わり獲物を皆で平らげると、リーダーは群れの最後尾から申し訳なさそうにやってきた《ヴォジャ》に背を向けました。ひと言も声をかけることなく雪の中を進んで行きます。それは《番狼》の中での別れの合図でした。これからは仲間でもなんでもない。《番狼》の群れの皆も同じように従います。《番狼》の群れの中では、リーダーの決断は絶対で誰も逆らうことができなかったのです。皆の姿が見えなくなった頃《ヴォジャ》は雪の中で独り泣いていました。お荷物だった自分を今まで支えてくれた感謝と、これからは独りで生きていかなければならなくなった寂しさとの二つの意味を込めて――。

《トルシミール》は悩んでいました。戦時中であるボロス軍が新たに《空騎士の軍団兵》を軍隊に組み込み、戦力強化を図っているとの情報が入ったのです。今は急遽緊急会議が開かれています。対抗策として様々な案が議会に飛び交いましたが、どれもこれも決定的だとはいえず《トルシミール》の悩みは続きました。どうすればいい。戦況はますます激化する。その中で、どうやってセレズニアを勝利に導けばいい。

会議はひとまず中断され、《トルシミール》は少し頭を冷やそうと雪道に散歩に出かけました。今日はいい月が出ている。散歩にはちょうどいい。ふと目の前から小さな影がよろよろと近づいてきます。近頃は《番狼》の群れが付近の集落を襲い掛かる事件が多発していて、セレズニア議会の中でも深夜の出歩きは控えるよう心がけられていたのです。《トルシミール》はあせりました。今自分が負傷を負ってしまうわけにはいかない。何とか逃げ延びなければ。しかし様子が変です。群れをなすことが習性であるはずの《番狼》がたった一匹、それも随分と弱り果てています。やってきた《番狼》は《トルシミール》の姿を見つけると、そのまま雪の上に倒れました。もう何日も雪の中を歩き続けてくたくただったのです。

《ヴォジャ》が目を覚ましたのは白いベッドの上でした。目の前に人間がいます。わけがわからず人間の腕に噛み付きました。しかし顎に力を込めたはずが食いちぎることができません。歯形を残すことが精一杯でした。人間は少しだけ苦しそうな表情を浮かべたあと、《ヴォジャ》の頭を優しくなでました。かわいそうにな。群れからはぐれてしまったのか。人間は話します。少しのあいだここにいるといい。傷が癒えたら、俺も一緒に群れを捜してやろう。

《トルシミール》は不思議でした。今はこんなことをしている場合ではない。一刻も早くボロス軍の進撃を食い止めなければならない。そのために案を考えなければならない。そう思って雪道を歩いていたはず。しかしなぜか目の前に倒れた無力な《番狼》をほうってはおけず、気がつけば彼を抱いて議会の医務室へ駆け込んでいました。弱り果てた《番狼》を見て医者は驚きました。しかしすぐに《トルシミール》の真剣な表情に気づき、《ヴォジャ》を診察し始めました。腕利きの医者に介抱され安心して眠りについたヴォジャを見て、《トルシミール》は胸をなでおろしました。

《ヴォジャ》はまた泣いていました。人間の言葉は理解できませんでしたが、噛み付かれた腕を放そうともせず、自分をなで続けている人間が、雪の中から自分を助けてくれたことに気がついたのです。恩返しをしよう。この人の役に立てるように頑張ろう。強くなろう。これからはこの人のために生きていこう。強く強く心に誓いました。その心が通じたのか、人間は小さく微笑みました。

やがて愛狼《ヴォジャ》を従えた《トルシミール》は、戦での活躍からボロス軍のあいだで噂になり、いつしか《トルシミール・ウルフブラッド》と呼ばれるようになりました。狼を従えたセレズニアのリーダーとして《トルシミール》の名は広まり、やがてラヴニカの歴史を大きく突き動かしていくことになります。セレズニア議会が、暗殺集団を多数組織するディミーア家や、悪魔を崇拝し死者をも蘇らせるゴルガリ団と肩を並べるようになるのは、そう遠い日のことではありませんでした。


WisdomGuildより。

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